2016年度 発表会

2016年度 発表会

第3回
ニーズ&アイデアフォーラム(NIF)
日時 2016 年3月5日( 日) 10:00 – 16:00
場所 すみだ会館
主催 ニーズ&アイデアフォーラムプロジェクトチーム

ニーズ& アイデアの展示発表を9:30 – 16:00 で行った。学生の発表は10テーマで、今回は会場が広く、スクリーンで順番に発表していた口頭発表も、展示場所にて実演紹介を行い、スクリーンにそれらを生中継で映した。参加者( 障害のある人、福祉・教育に関心ある人、行政・企業の人など) からは、学生のアイデアに触って体験していただき、様々なアドバイスを頂いた。学生の作品以外に東京都作業療法士会から様々な道具、日本玩具協会から共遊玩具、共用品推進機構から様々な共用品、当センターから「栄養と食事、薬関連」の体験型の展示協力もあった。

プログラム

10:00 – 10:10

開会の挨拶
国立障害者リハビリテーションセンター  自立支援局長 飯島 節

10:10 – 10:20

趣旨説明 「ニーズ&アイデアプロジェクトのねらい」
国立障害者リハビリテーションセンター    研究所長 小野 栄一

10:20 – 12:00

【成果発表】
 ①学生チームによるテーマ毎の発表(8チーム)
 ②ゲストコメンテータによるコメント

・国立病院機構 八雲病院 作業療法士    田中 栄一氏
・東京都リハビリテーション病院 理学療法士  植松 寿志氏
・利用者の立場  福島 実氏
・司会:埼玉大学大学院 理工学研究科 准教授 琴坂 信哉氏

13:30 – 14:15

【特別講演】「 支援機器開発における作業療法の挑戦」
一般社団法人 日本作業療法士協会 会長  中村 春基氏
司会:千葉大学大学院工学研究科 教授   寺内 文雄氏

14:25 – 15:55

【フォーラム】「これからの支援機器開発と人材育成」
登壇者
・一般社団法人 日本作業療法士協会 会長 中村 春基氏
・国立病院機構 八雲病院 作業療法士 田中 栄一氏
・東京都リハビリテーション病院 理学療法士 植松 寿志氏
・利用者の立場 福島 実氏
・ニーズ&アイデアプロジェクトチームメンバー 教員及び学生
・座長 国立障害者リハビリテーションセンター 研究所長 小野 栄一

15:55 – 16:00

閉会の挨拶
国立障害者リハビリテーションセンター  研究所長 小野 栄一

※成果作品の展示、併催展示など 9:30 – 16:00


総括コメント

田中 栄一 氏(たなか・えいいち)

1993年3月 弘前大学医療技術短期大学部 卒業
1994年4月 北海道勤労者医療協会
1998年4月 国立療養所八雲病院(現国立病院機構八雲病院)作業療法士

国立病院機構八雲病院作業療法士として、重度の筋ジストロフィー症者等のコミュニケーション支援機器等の活用を通じた生活支援に取組むエキスパートで、日本作業療法士協会制度対策部福祉用具対策委員会委員として作業療法士のIT機器を利用した臨床活動の支援のための講師としても活躍中。さらに、社会貢献活動として、難病等の当事者団体の支援講座の講師として臨床の経験とノウハウを直接当事者に指導するなど機器活用方法の普及啓発活動に取り組む。

普段は、手足の力が、徐々に弱くなっていく筋ジストロフィーの方々と関わっています。今回、このフォーラムに参加するにあたって、患者さんから、いくつか、コメントをもらいました。

まず、彼らが強調したいたことが、2つ。一つは、「ニーズに振り回されていませんか?」ということです。言葉に誤解があるかもしれませんが、このような機器開発にとって、当事者の意見は大切ですが、一つ一つのニーズ(要望)を拾い上げて道具をつくっていては、周りは道具で溢れてしまいます。

あったらいいなを形にしていくことは素晴らしいのですが、どんなものが一番大切なものかは、要望があった時点では、誰にもわからないのです。ものづくりでは、利用者と協業しながら、「あれはこれは?」とお互いに気づき会いながら試行錯誤していく、そのニーズを 十分に揉んでいく時間と過程が大切です。

二つ目は、できることが増えることは嬉しいが、道具が増えるのは困るということでした。
贅沢な意見かもしれませんが、私達でも、テレビやエアコンやオーディオ機器のリモコンばかり増えては困りますものね。できれば、生活をシンプルにしたいと思うものです。福祉用具は、できれば使いたくないといいます。一手間増えることが、「やってみよう」「つかってみよう」の壁になることもあるようです。

彼らからの意見で多かったのが、今回のアイディアを使うときに、実際、生活の中で継続して利用できるだろうか?でした。例えば、ハンバーガー班の場合ですが、ハンバーガーだけ頼むってことはないですよね。お金の支払いはどうするのだろう?ポテトを頼んだらどう食べるのだろう?独りなの?複数人なの?「自分で食べたい」というニーズだけど、どんなことを大切にしたいのだろう?など、実際の機器開発では、場面を想定して、どのタイミングで、道具を活用して課題を達成するかが大切となります。道具の導入でかえって、困難さを増やしてしまわないような視点が重要です。

天体の班も同様なことがいえます。視覚障害の方への教材ツールとしてとても、面白い視点だと思います。ただ、その教材を利用して、天文に興味をもった障害を持つ子が、もっと学びたいときに、次はどのようなツールがあるのだろう?せっかく興味をもっても、次の手立てがないと、そこから興味を育てていくことも止まってしまいますよね。筋ジストロフィーという障害を抱えた彼らが強調していたのは、できないよりはできたほうがよい。でも、なんでもよいわけでない。ということでした。ぜひ、利用者と一緒に開発に取り組んでくれるかたが増えたらいいなと思っております。

植松 寿志 氏(うえまつ・ひさし)

2004年3月 東京衛生学園専門学校 リハビリテーション科 卒業
2004年4月 東京都リハビリテーション病院 理学療法科 入職
2017年2月 東京都リハビリテーション病院 理学療法科 現職

東京都立リハビリテーション病院理学療法士として、主に成人の神経疾患や運動器疾患の理学療法に関わり、障がいをもつ対象者の自立支援に取り組む。

短い期間で違う学校の方がこれだけ案を練って形にするだけでも、すごく大変だったと思います。私は機器というと歩行補助具、車いす、義足や下肢装具などを中心にかかわっており、理学療法士なので、作品について機能面の立場から適用する範囲はどのへんなのかを中心に物を見てみました。

色を検知して音楽が鳴る車いす:介護老人保険施設や小児施設でも使え、脊髄損傷の方などにも適用になると思いました。脊髄損傷の方が車いす練習をするのはハードで、400m・1周を5周やってきてくださいというレベルで練習をします。同間隔で「白色」がありますが白い幅を途中から広げたり、狭めたりすることで漕ぐ人のスピードを調整できます。白が広いと、音楽がゆっくりになるので、スピードアップしなくちゃいけないという工夫ができるんじゃないか。直線だけではなく、スラロームにして練習をするなどで、車いすトレーニングに生きてくると思います。すごく需要が大きいあると思いました。

ネックレス:片麻痺の方だけでなく、上肢切断、末梢神経麻痺とか、外傷で手の巧緻性が落ちている方、ネックレスができなくなった人も多いし、すごくいい発想だと思います。
つける工夫はされていましたが、ネックレスを回す動作が難しい人もいるので、その辺は課題になると思いました。

靴紐:携帯性と靴幅の個別性に対応できて、コンパクトにしまえ、靴紐もきれいにチョウチョ結びができて、本当にすばらしいと思いました。以前、片麻痺の方でプラスチック装具を履いている方の靴の選び方を調査したら、外観よりも値段や、購入のしやすさがポイントでした。少し個別性の高い需要のものに関する支援機器は未発達な段階なので、それを解決できる素晴らしい提案だと思います。

ギター:ギターもすごくきれいな音が鳴ってて素晴らしいなと思いました。麻痺側の手をコントロールできない人もいるので、手の重みが座っているバランスを悪くすることもある。
その麻痺側の手をどこに置くかを検討すると1つレベルアップしたものができるのではないかと思いました。

ありがとうございました。

福島 実 氏(ふくしま・みのる)
某楽器株式会社に勤めております。元々洋楽が好きで、ギターを弾き始めたのは中学1年生くらいから、高校卒業後プロギタリストを目指してアメリカの大学へ留学、その後現在の会社の商品開発課へ配属され、自社ブランド商品の開発を担当してきました。最初に手掛けたのは電子ピッチパイプ、それからギター全般に関わる様々な商品を手掛けてきました。

その最中、2013 年7月に意識を喪失し脳内出血で防衛医大病院へ救急搬送、左半麻痺・高次脳機能障害等々と診断され、その後国立障害者リハビリテーションセンターと職業リハビリテーションセンターでの訓練を経て、お陰様で2015 年2 月に復帰することが出来ました。

弊社にはまず第一に「音楽の楽しさを提供し、音楽を楽しむ人を1人でも多く創る」という理念があります。今回の「片麻痺者『ギター補助具』」に関して、「片麻痺の人がギターを弾けるようになるためにはどうしたらいいか」というアイデアに対して、作業的な観点から言いますと、そもそもまだ「1曲を弾ける」、「音楽を楽しむ」というところまでは至ってないと感じます。一楽器メーカーの開発に携わってきた者としては、「誰にでも簡単に出来る」「楽しめる」というところまで突き詰めに突き詰めて、最終的に販売が出来る形にまで持っていかないと商売として成り立ちませんので、アイデアとしては良いものの、ここからいかに製品化まで持っていけるかが今後の課題と感じます。

モノ創りの観点からその他のアイデアについて言いますと、「片足で靴紐を結べる補助具」は一番実用化に近いと感じます。非常にコンパクトなデザインで携帯性も考えられてあり、これでしたら実際に靴メーカー等へ商談を持ち掛けても申し分ないと思いますし、さらに販売出来る価格帯まで詰めて、爆発的に販売出来るような製品になったら素晴らしいと思います。

基本的に私には音楽・楽器メインでの話しか出来ませんが、モノを創ってきた側としては、学生の皆さん には実際に販売されるところまでのイメージまでを描いて欲しいと思います。アイデアを出してきて下さった学生の皆さん、ありがとうございます。